【解説】井上尚弥のボディブローを分析・考察してみた

井上尚弥選手の代名詞であるボディブロー。井上選手が奪った38回のダウンのうち、14回がボディブローによるものです。

今回はそんな井上選手のボディーブローをボディーブローの名手と比較しながら、分析・考察していきたいと思います。

この動画でわかること
  • 得意なボディブロー
  • なぜヒットするのか
  • なぜ威力があるのか
  • 得意なヒットパターン
  • ボディブローの名手
目次

井上尚弥スキル特集ボディショット編

レバーブロー

レバーブローは、井上選手が最も得意とするボディブローと言っても良いのではないでしょうか。井上選手がボディで奪った14回のダウンの内、12回がレバーブローによるものです。
プロ・アマ通じて159戦ダウン経験のないナルバエスや、ボディでのダウン経験のないダスマリナスをKOしたのもこのパンチです。

レバーブローとは

レバーブローは相手の右脇腹にあるレバー(肝臓)を狙って打つパンチで、ほとんどが左フックか左アッパーによって決まります。
特に右半身を前に出す構えのサウスポーに対して当てやすく、逆に自身がサウスポーの場合、左腕が後ろにくるので当てづらいパンチになります。

ボクシングにおいて最も効果的で、即効性のあるこのボディブローは、最もポピュラーで、最も多くのKOを産んだボディブローと言えるでしょう。
内臓の多くは腹直筋や腹斜筋の内側にあり、分厚い壁に守られていることになりますが、肝臓はほとんど筋肉のない肋骨の内側に位置します。
さらに肝臓は内臓の中で最も大きく、外側に位置しているので衝撃が一番伝わりやすいのです。
内臓自体に痛覚はありませんが、内臓を覆っている腹膜に痛覚があり、レバーブローがヒットすると肝臓を覆っている腹膜に衝撃が伝わり激痛が走るのです。
その痛みは、鍛え抜かれたボクサーが顔を歪めて悶えるほどです。

動画をご覧の方は、是非ご自身の両脇腹、肋骨辺りを掌底で軽く叩いてみてください。右脇腹の方が痛みを感じるかと思います。

レバーブローの名手

ボクシングにおいてレバーブローの名手は多くいます。
日本人で言えば、辰吉丈一郎選手、内山高志選手。竹原選手が日本人初のミドル級世界王者となった時に、ダウン経験のない王者からダウンを奪ったのもレバーブローでした。
世界で言えばチャベスをはじめとしたメキシカンボクサーやアルゲリョなど、名前を挙げたら切りがありません。

井上尚弥のパンチフォーム

井上選手のレバーブローが他の選手と異る点は、脇腹をこそげ取るように打つパターンがあるところです。
通常、左のボディフックがヒットしたところで腕が止まりますが、井上選手の場合そのまま振り抜くパターンが多く見られます。
プロボクサーの赤穂亮選手も
「こするようにボディ打つよね。あれはわざと打ってんのか?効くよねあれは。」
自身のYouTubeチャンネルより
と話していたことがあります。

パワーパンチを打ち込んだ結果そうなっているのか、狙ってやっているのかわかりませんが、サマートレック、ナルバエス、ドネア、ダスマリナスから奪ったダウンはこのような打ち方でした。

辰吉選手は斜め下から突き上げるようなアッパーやフック。井岡選手は手数の多さを活かした上下左右で打ち分けと、コンパクトで精度の高いパンチ。内山選手は、軸のぶれないコンパクトで重い一発を得意としていました。
井上選手のレバーブローはほぼフックで、前脚を内側にステップし全身を回転しながら打ちます。
井岡選手のように細かく多く打っていくというより、狙いすましたパワーパンチやラッシュの中での上下の打ち分けで当てていくことが多いです。

なぜヒットするのか~得意なヒットパターン~、なぜ威力があるのか

なぜ井上選手のレバーブローはよくヒットし、ダウン経験のない王者を倒すほど威力があるのでしょうか。
理由は主に3つあると考えました。
それは

  • 顔面へのダメージ
  • コンビネーション
  • フェイント

です。

顔面へのダメージ

井上選手がレバーブローでダウンを奪ったり効かせたシーンは、事前に相手に顔面へのダメージを与えていた場合がほとんどです。
ナルバエスやサマートレック、エマニュエル・ロドリゲス、ボワイヨなど、事前に顔面へのダメージを与えた上でのダウンでした。

顔面へのダメージを効かされれば当然顔面へのガードは固くなります。井上選手ほどのハードパンチャーならなおさらです。通常の選手なら、顔面へのダメージが効いている相手には顔面へのラッシュをかけますが、井上選手の場合は、ここぞとばかりにボディへのパンチを打ち込んでいきます。

相手は顔面への意識、注意を向けているのでヒットしやすく、より効いてしまうのではないでしょうか。

コンビネーション

井上選手がレバーブローを打つ際に最もよく使っているコンビネーションが、右アッパーからの左ボディフックです。
このコンビネーションは井上選手が実際にミット打ちで練習していたものです。

このコンビネーションは珍しいわけではないですが、非常に効果的で、カネロも得意としているコンビネーションです。

ジャブやストレートなど、縦のパンチをガードするには両腕の中央を閉じる必要があります。さらに、下から突き上げる動きのアッパーに対しては肘を閉じて、より固める必要があります。さらに、アッパーによってガードを上げさせられてしまいます。
こうなると肘によって守られていた左脇腹にスペースができるのです。
そこに、前脚を内側にステップインして強烈なフックを打ち込むのが、井上選手の最も得意とするレバーブローのパターンです。
ナルバエス戦、ドネア戦、ダスマリナス戦で奪ったダウンがこのコンビネーションによるものです。

ナルバエス戦を例に見ていきましょう。この試合で井上選手は、顔面へのパンチで1Rに2回ダウンを奪いました。
その後、ナルバエスは顔面へのガードをがっちり固めますが、井上選手は中々ボディを出さず執拗に顔面へのパンチを繰り返します。
しかし、2Rに顔面へのパンチでダウンを奪い、ナルバエスが完全にガードを固めると、ジャブからの右ボディフック、左右のフックからレバーブロー、ジャブ2発からのレバーブロー、右アッパーからのレバーブロー。
完全に顔面を意識させてから、コンビネーションによるボディーブローで畳み掛け、試合を決めました。

なお、マイク・タイソンは、レバーブローで相手のガードを開けてから、右アッパーを顔面に当てるという、このコンビネーションとは逆のパターンを得意としていました。

フェイント

井上選手がコンビネーションやラッシュの中でレバーブローを打っていないパターンがあります。
それは一瞬の右ストレートのフェイントです。
左脚を前に踏み込み、右肩で一瞬ストレートのモーションを出しておいて、左下に身体を傾けレバーブロー打つパターンです。
この動きはフェイント自体が左ボディフックの前モーションで、レバーブローまでの動きが連動的に行なえます。
さらに、相手はストレートという縦の動きのパンチをガードする必要があるので、両肘を閉じ、脇にスキができやすいのです。
井上選手の場合、強打を顔面に効かせているので尚更ヒットしやすいのでしょう。

ボディーストレート

次に紹介するボディーブローがボディーストレートです。
オーソドックスの構えの場合、右腕からボディに向かってまっすぐ放たれるこのパンチは、井上選手がプロ初ダウンを奪った記念すべきパンチです。
使用頻度はレバーブローほど高くありませんが、時折放っています。

ボディストレートとは

ボディーストレートは主に腹部の真ん中、横隔膜や胃に当てることが多く、それらは腹筋に守られていてレバーブローほど決定打になることは少ないですが、相手がパンチを意識していないときなど、タイミングが合えば相手は息ができなくなり、KOになるボディーブローです。
また、キックで言うところの前蹴りのように相手の前進を止める効果や、相手のガードの意識を下に下げる効果があります。

ボディストレートの名手

ボディストレートの名手と言えばモラレスです。顔面へのストレートのモーションで放たれるモラレスのボディストレートはタイミングがよく、多くのダウンを奪っています。
事前にワンツーなどのコンビネーションで、相手への顔面へのストレートを見せているので、相手はそのストレートが顔面に来るのか、ボディに来るのか見極めるのが非常に困難になります。
結果、相手はボディのガードができず、もらってしまうのです。
飛び込むように体重を乗せ右腕を伸ばし切るこのパンチは、威力抜群な上に、顔面へのストレートが来ると思い込んでいた相手にはかなりのダメージでしょう。

井上尚弥のボディストレート

一方、井上選手のボティストレートはコンパクトです。モラレスのように体重を預けるようなパンチではなく、カウンターをくらわないようヒットアンドアウェイですぐにバックステップします。
レバーブローのような仕留めるパンチではなく、顔面へのストレートと混ぜることで上下に意識を散らしたり、じわじわと効かせるパンチが多い印象です。

ヒットパターン

井上尚弥のボディストレートは、ほぼコンビネーションで放たれます。
ジャブ1発、あるいは2発からのボディストレートです。
このコンビネーションは顔面へのストレートでもよく見られ、それを事前に見せているので、ボディストレートがヒットするのでしょう。
エルナンデス戦ではジャブからのボディストレートで相手をよろめかせ、会場をどよめかせました。1R 1分
その後もボディストレート(2R1分45秒)とレバーブローでボディを攻め立てました。
ダウンは顔面へのパンチで奪ったものですが、ボディを効かせていたからこそヒットしていたので、ボディが非常に効果的だった試合だと思います。

田口戦では、ボディストレートから左アッパーと見事なコンビネーションを決めていました。4R2分45秒

ボディジャブ

最後はボディジャブです。
このパンチも井上選手がよく使うボディーブローです。

ボディジャブとは

ボディジャブはオーソドックスの構えの場合、左腕で相手のボディの真ん中に放つボディブローで、腰をかがめ、前脚を出し、広いスタンスで潜り込むように放つパンチです。
このパンチ自体でダウンを奪えることはほぼありませんが、相手の目線を上下に散らす、リズムを崩す、相手に入り込ませない、採点で稼ぐなどの効果があります。
パワーパンチではないので、通常のジャブと同様にアウトボクシングが得意な選手が多用するパンチです。
ダウンを奪えることはないと言っても、ボディブローで与えられるダメージは蓄積型なので、カウンターで井上選手のボディジャブをもらい続ければ、効いてくると思います。

ボディジャブの名手

ボディジャブの名手はメイ・ウェザーです。
井上選手と同様、打たせずに打つスタイルのメイ・ウェザーはボディジャブを多用します。
顔面へのジャブを匂わせつつ、相手が前にステップし始めた瞬間に広いスタンスで前脚を大きく伸ばしみぞおちにヒット。
打った後はすぐに前のスタンスに戻します。

井上尚弥のボディジャブ

井上選手のボディジャブはキャリア序盤ではあまり見られず、最近になるにつれ多く見られ、また長身の相手に多く打っている印象です。
ボディジャブは相手の懐に飛び込むので、フックやアッパーのカウンターをくらうリスクがあります。現に井上選手は相手のボディージャブにはぼとんどカウンターを狙っています。
しかし、井上選手は相手がカウンターを打てないタイミングで打っているのです。
メイ・ウェザーと同様、顔面へのジャブを織り交ぜ放ったり、相手が前にステップした瞬間や、後ろ足に重心を置いた瞬間(ドネア4R30秒)にヒットさせ、素早いバックステップで安全距離へと移動します。
このように自分のボディジャブがヒットしやすく、相手はパンチを出しづらい瞬間にボディジャブを打ち、素早く安全距離に移動して、打ち終わりのカウンターをもらうことを防いでいます。

また、このボディジャブのモーションで顔面にジャブを打ったりと、顔面へのジャブを当たりやすくする狙いもあるようです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

井上選手の得意なボディーブローですが、この他にも右ボディフックやアッパーなど、得意とするボディーブローやボディーブローが決まったシーンがあるかと思います。
ぜひ皆さんの考える、ボディーブローやシーンがありましたらコメント欄にて教えて下さい。

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