井上尚弥パンチ力が落ちた説は本当なのか?~階級の壁~

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井上選手がスーパーバンタムに上げてから、少しづつ言われるようになった説があります。
それは「井上尚弥のパンチ力が前より圧倒的でなくなった」というものです。

井上選手といえば軽量級とは思えない爆発的なパワーで、数多くのファイターを試合序盤でKOし、衝撃的なシーンを見せてきました。
しかしスーパーバンタムに上げてからの2試合は、KOながらも8R、10Rかかったこともあり、以前より圧倒的なパワーはなくなってきたという声を耳にするようになりました。

しかし、個人的な考えとしては
「まだ試合を重ねないとはっきりとはわからないが、スーパーバンタム2試合を終えた時点ではこれまで同様充分に通用している」
というのが答えです。

今回は、本当に井上尚弥のパワーは圧倒的ではなくなったのか、パワーが無くなったという意見とともに考察していきたいと思います。

目次

井上尚弥パンチ力が下がった説は本当なのか?

パンチ力が下がったという声~階級の壁~


来る5月6日に東京ドームで行われるボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥と、元世界2階級制覇王者のルイス・ネリによるタイトルマッチ。

この一戦に向けて、ある米メディアが井上選手のパワーについて批評しました。

現時点でアメリカを含めた大衆の下馬評は、2年ぶりの防衛戦に挑む井上選手の有利と見る向きが強いです。昨年1月にスーパーバンタム級に転級した井上選手は、7月にスティーブン・フルトンを8回TKOで撃破し、約5か月後にはマーロン・タパレスにも快勝。同階級を短期間で統べ、史上最速となる2階級での4団体統一の偉業を達成し、世界的な評価を高めました。

対するネリも直近4戦4勝を記録しており、井上選手よりも先にスーパーバンタム級でキャリアを築いてきた実績を有しています。

ゆえに「悪童を侮るべからず」という指摘も飛んでいます。米ボクシング専門メディア『Boxing247』は、この試合を「スパイシーな対決になる」と断言しています。また、以前に日本で2度の試合を行った経験があり、山中慎介氏から連勝を飾ったネリの実力を「ネリの方がヤマナカよりも若く、より強く、優れたファイターだった」と強調。「ネリはパワーも、スピードも、体躯もあり、イノウエのタイトル保持を終わらせることもできる」と期待を寄せています。

井上の苦闘を予測する同サイトは、「イノウエは確かに優秀ですが、階級を上げるごとに、対戦相手にスペシャルな存在はいなくなっています」と断言しており、さらに昨年12月に10回KO勝ちを収めたタパレスとの一戦についても「タパレスは他のスーパーバンタム級のファイターたちほどパワフルには見えませんでした」と指摘し、「この試合は、モンスターのパンチが過去3階級で戦ってきた時のようなパワーを持っていませんでした」と論じています。

そして、「ナ はタパレスに勝ち、パウンド・フォー・パウンドの上位にランクされることになりましたが、多くのアメリカ人は彼の対戦相手たちのレベルに不満を覚えています。ゆえにクロフォードと並び評されるボクサーになるのは、今以上にもっと努力する必要があります」と辛口な評価を下しました。

そして

「ネリはモンスターを倒し、イノウエを地に落とす存在になるかもしれません。そうなった時点で、イノウエは再戦の可能性を忘れ、それほど打撃も強くないバンタム級での戦いに専念する方がいい考えかもしれません」

と、米メディアらしい井上尚弥に対する厳しい評価を並べました。

過去最強と目されたフルトンと戦って、「階級を上げるごとに、対戦相手にスペシャルな存在はいなくなっています」という見解は理解に苦しみますが、以前の階級のようなパワーはなくなっているという意見はよく耳にします。

これはいわゆる「階級の壁」というもので、軽量級で圧倒的なパワーを誇っていたローマン・ゴンサレスや、5階級制覇のドネアなどが、階級を上げ判定や黒星が増えていきました。
階級を上げるとパワーが通用しなくなるというのは物理的に仕方がないことで、例えば重い球と軽い球をぶつけ合ったとき、重い球はあまり動かず、軽い球は吹き飛ばされます。
ですので、本人が同じパワーであっても相手の体重によって相対的にパワーが下がり、パンチを効かせられなくなるのです。

ここで、「同じ階級であれば同じ体重だから条件は同じではないか?」と思う方もいるかもしれません。
格闘技において体重の計量は前日におこなわれることがほとんどです。
前日の計量をすませれば、食事や水分などで試合当日の体重を増やせるのです。
一部、リカバリー制限のルールがある場合もありますが、基本的には身体、フレームの大きい選手ほど当日体重を重くした状態で試合ができるということになります。

階級を上げるほど身体の大きい選手が多くなり、当日体重で不利な状況が多くなるということです。
他にもリーチや身長差などもありますが、今回は体重に焦点を当てた話になります。

6階級制覇のパッキャオも、ウェルター級では判定が多くなり、ディフェンスマスターとして知られるメイウェザーは、軽いスーパーフェザー級時代はKOを量産していました。

井上尚弥の階級の壁について言及した人は日本人にもいます。
元世界2階級制覇王者の畑山隆則氏です。

畑山さんは井上vsタパレス戦後、
「これも階級の壁なのかなとも思いましたけど。今迄みたいに序盤でガーンという感じじゃなくて、相手は耐えてるもんね」
と、コメント。

井上選手はタパレス戦後のインタビューで
「階級の壁とか苦戦とか言われてますけど、この内容で言われたらどうしたら良いんです?(笑)」
「タパレスも世界王者ですよ。それだけ自分に期待値があったり、皆さんの感情があるのは凄く嬉しいことなんですけど、これで言われたらやりづらいですよ! 1、2発パンチをもらったら苦戦してるとか、漫画じゃないんだから(笑)。大振りという指摘もあったけど、その中でやっている本人しかわからない小さい駆け引きもある」
と反応しました。

また畑山さんは井上vsネリ戦の予想でも
「タパレスもそうだったんだけど、やっぱり井上選手と言えども、軽い階級の時の一発で倒すイメージが明らかに薄れているのは確か。ダメージを与えていっての中盤から後半なのかなとは思うんですよね。この階級でも倒してるんで〝階級の壁〟と言うと失礼なんだけど、さすがに下の階級の時みたいに一発で倒すという感じではなくなってきてる。
ダメージを与えて倒す。」

と、やはり以前よりパワーは目減りしているという見解は変わっていないようです。

本当に井上尚弥のパワーは圧倒的ではなくなったのか

では、本当に井上尚弥のパワーは圧倒的ではなくなったのかというと、個人的には
「まだ試合を重ねないとはっきりとはわからないが、スーパーバンタム2試合を終えた時点ではこれまで同様充分に通用している」
というのが答えです。

畑山さんが言ったように井上尚弥と言えば、試合序盤の圧倒的なKOシーンが印象的ですが、すべての試合がそうではありません。

判定勝利だったカルモナ戦や、10RKOとなったペッバーンボーン・ゴーキャットジム戦では拳の怪我、判定勝利となったドネア1は目のカットなど、それらのアクシデントがあった試合を除いても、格下と言われていたディパエン戦は8R、サマートレック・ゴーキャットジム戦、バトラー戦では11RかかってKO、田口良一戦では判定勝利しています。
これらは圧倒的なパワーと言われていたライトフライ級、スーパーフライ級、バンタム級時代の試合です。
ディパエン戦ではパンチがヒットしていてもなかなか倒れず、「俺パンチ力ないのかな」と井上選手が自信を無くすほどでした。

6RTKOとなったスーパーフライ級のニエベス戦も、圧倒的な力量の差がありましたが、ニエベスが逃げダウンを奪うのに時間がかかり、ニエベスのギブアップにより試合が終わりました。

このようにエマニュエル・ロドリゲスやドネアのように、前に出てくる相手には序盤でKOしていますが、以前の階級であっても、相手がディフェンシブになったら序盤でKOできないという試合はありました。
ここ最近でいうと積極的に前に来たのはドネア2くらいで、その試合は2RTKOで倒しました。

また、井上選手というとガードの上から効かせるというイメージがあります。
ナルバエス戦では1R早々ガードの上からダウンを奪いました。

この試合は井上選手にとってスーパーフライ級 初の試合で、ギリギリの減量でやっていたライトフライ級に比べて「こんなにも違うのか」と、力がみなぎっていたことを井上選手自身が語っています。

マクドネル戦でも同じように、1Rから早々ガードの上から倒しましたが、この時マクドネルは減量に失敗してコンディションは最悪でした。
他にガードの上からダウンを奪ったのはパレナス戦くらいではないでしょうか。

このように、ガードの上からKOなどは井上選手の試合の中でも珍しく、相手がディフェンシブに来た場合、序盤でのKOは難しいということは以前の階級でも言えることです。

スーパーバンタムでの2試合は相手はいずれも2団体統一王者。
これまでよりレベルの高い選手を相手にしています。
むしろ、レベルの高い相手が慎重に来ているのによくKOで決着できたな、というのが個人的な感想です。

試合の映像を見ても、井上選手のパンチは相手がガードしても腕が飛ばされたり、身体が動かされているのがわかります。

「階級の壁」という言葉は、井上選手に限らず階級を上げた選手によく言われる言葉です。
井上選手が階級の壁と言われる理由は、階級を上げるとそういった目線で見られがちということ、井上選手はスーパーフライ級、バンタム級と階級を上げた直後の試合は2R以内のKOで終わらせており、その印象が強いこと、井上選手の評価が高くなり、ハードルが上がり過ぎていること、が原因だと思います。

しかし、階級を上げていけば今後、身体の大きい選手を相手にすることが多くなっていき、どこかに必ず階級の壁というものは存在します。

みなさんは井上選手の「階級の壁」、何級にあると思いますか?

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