井上尚弥はディフェンスも超一流だった【解説・考察】

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その圧倒的なKO劇から、パワーやオフェンステクニックに目が行きがちな井上選手ですが、ディフェンスも一流です。
井上選手は被弾シーンが少なく、試合後もきれいな顔をしていることが多いです。

バトラー戦前に「本当にディフェンスに徹底したら、きっと一発ももらわないだろうという自信がある。実はディフェンスが一番得意なんだというところを見せたい。」
と、自分自身で語るようにディフェンスも本当に上手いボクサーです。
今回はそんな井上選手のディフェンス能力に迫っていきたいと思います。

目次

井上尚弥はディフェンスも超一流

井上選手のディフェンスの秘密は

  • フットワーク
  • 読み
  • 距離感
  • メンタル

にあると考えています。

フットワーク

井上選手のディフェンスで最も要になっているのはフットワーク(バックステップ)ではないでしょうか。

井上選手の戦い方は”打たせずに打つ”基本的かつ理想的なボクシングスタイルです。
自分の攻撃時には鋭い踏み込みでパンチをヒットさせ、打ち終わりの反撃にはダッキング、スウェー、素早いバックステップで回避します。

距離を取り合う場面では、反発する磁石のように細かいバックステップで、相手の射程圏外をキープします。

井上選手は練習時、定期的につま先で細かいステップを踏んでいます。
つま先で地面をとらえるということは、足首の動きを使えるのでふくらはぎの筋肉を使え、さらに地面に力を加える方向も調整でき、細かいステップや素早い移動が効率的におこなえます。

後ろ重心の構えで蹴りがあるキックボクシングではベタ足となることが多いですが、ボクシングではパンチを打っていないときはつま先でフットワークを生かした動きが多いです。

井上選手は
「僕のボクシングは、ステップ イン、ステップバックのステップワークで成り立っている」
と語っており、

ミット打ちの練習を見ても、井上選手は打った後は常につま先でのステップを行っており、オフェンスとディフェンスが表裏一体ということを練習時から意識していることがわかります。

自分のパンチを当て相手のパンチをかわすというのは、距離を詰められカウンターを食らうリスクがあるので、単純に相手のパンチだけをかわすよりも難しいですが、試合中練習中、常にこのオフェンスディフェンスの切り替えを瞬時におこなっています。

元世界チャンピオンの畑山隆則さんは井上選手について
「圧倒的に勝つけど、意外と基本に忠実なことしかやってないんですよ。打った後のガードの速さとかね。オフェンスの後のディフェンス。この速さ、これが一番大事じゃないですか。打った後っていうのが一番隙が生まれる。基本を本当に忠実によくやったなと。日本人のボクサーにも、速さとかパンチは別次元としておいておいても、基本の忠実さっていうのは日本人のボクサーにも真似してほしい」
と、基本のディフェンスレベルの高さについて語っています。

井上選手は小学生の頃から毎朝ロードワークをしており、今でも1時間のロードワークを欠かさないそうです。
中、高時には、自宅に父が設置した荒縄を腕だけでのぼり、父が乗る軽自動車を押して坂道を上っていたそうです。

井上選手のふくらはぎ、下半身はボクサーとしてはかなり太く、パワーだけでなくフットワークにおける爆発的なスピード、瞬時の細かいステップもここからきているのでしょう。
そして、それは小さい頃からのひたむきな努力の積み重ねがあったからこそ実現しているのです。

ロープを背負ったときは、相手に打たせて、引きつけてからサイドステップ。
フェイントを交えたサイドステップで回避するのも得意です。
ロープに関して井上選手は、緩く張っていたほうが緩みを使って相手との距離がずらせるから緩い方がいい。逆にファイタータイプは相手をロープに張り付けてパンチを打ち込めるから硬いほうがいい、と語っており、ハードパンチャーでありながらもディフェンス重視ということがうかがえます。

フルトン戦では、フルトン得意のクリンチに対して、バックステップやピボットを織り交ぜ回避していました。

細かいステップで、相手の攻撃がギリギリ届かない距離をキープ。
自分が攻撃する時は鋭い踏み込みで一気に距離を詰める。
攻撃時も常にディフェンスを意識し、打ち終わりはすぐにバックステップ。

この動きが井上選手の基本的なディフェンスになりますが、これはボクシングにおいて基本的な動きになります。
この基本を、強靭な下半身、意識の高さ、後述しますが相手の動きの読みで極限まで高めているのが井上選手です。

読み

井上選手の読み(パンチの見切り)の能力の高さも異常でしょう。

井上選手はスウェーやダッキング、スリッピングアウェイでパンチを華麗にかわすのが得意です。
これは動体視力や反射神経の良さもそうですが、それだけではかわしきれません。
相手の前動作などから、次の動作を読む能力が異常に高いと思われます。

井上選手は試合中のことをこう語ります。

「リング上で対峙したとき、どこか一か所に焦点を絞ることはしない。ぼんやりと全体を見る。
その中で、相手の目はどこを見ているのか、肩はどう動くのか、呼吸はどうか、足の位置はどこにあるのか、重心はどうなのか、あらゆる情報を一瞬にして、五感で感じ取って収集し、その情報の処理をスーパーコンピューターばりに高速で行う。」

https://gendai.media/articles/-/69152

相手の上半身だけでなく、全身の挙動を細かく見ていることがわかります。

井上選手のスウェーやダッキングなどを見てみると、相手の動き出しと同時だったり、相手が打つ前に動き出しています。

ドネアとの一戦目では、目に負傷を負っているにもかかわらず、明らかに死角からのフックをよけています。
バトラー戦では、明らかに先に動き出しているシーンがあります。
スリッピングアウェイでも同様に相手のパンチを先読みして動いています。

この相手のパンチを読む能力の高さ故に、インファイトでもパンチをかわしたり、カウンターできるのでしょう。

ロドリゲス戦では、相手のコンビネーションを先読みして、相手の動き出しより先にブロッキングをしています。
そして、2Rでダウンを奪ったカウンターですが、1Rもロドリゲスのアッパーに対してカウンターを合わせようとしています。
この時も相手と同時に動き出しています。
井上選手は試合前、相手の試合動画をほとんど見ないと言っているので、やはり試合中に相手の動きや癖を読み取る能力が異常に高いのでしょう。

ノーガードでラッシュをかけ被弾したマクドネル戦ですら、マクドネルが減量によりパワーがないことを把握し、あえて強引にいったといいます。

距離感

そしてフットワークの能力の部分と重複するところでもあるのが距離感の良さです。

井上選手はスウェーやヘッドスリップ、スリッピングアウェイで、相手のパンチがギリギリ当たらない距離でよけていることが多いです。

フルトン戦では1R早々、フルトンのジャブを見切り最小限の動きでかわしていました。

ギリギリでかわせるということは、近い距離での打ち終わりのカウンターを外せたり、より近い距離で相手のパンチを外せるので、こちら側がカウンターを当てやすくなります。

モロニー戦で井上選手が奪った二度のダウンは、まさにそれを表しています。

モロニーのジャブに対してわずかにバックステップ、そしてスリッピングアウェイで顔を後ろに捻って受けています。
バックステップで距離を調整した上でのスリッピングアウェイ。当たってはいますがノーダメージです。
このスリッピングアウェイしながらの左フックは、井上選手が得意としているカウンターですが、これをバックステップだけでかわしていたら、当然左フックは届かないでしょう。
相手のパンチをギリギリいなすことで、ベストな距離で、ベストな位置に当てることができます。

そして二度目のダウンシーンです。
少し膝を曲げ、モロニーのジャブをわずかに左へスリップし、ギリギリでかすりながらかわし、コンパクトな右を振り抜き試合を終わらせました。
このジャブの打ち終わりに対するカウンターはミット打ちで練習していた技です。
顔が拳一つ分ズレていたら被弾している距離だからこそ、クリティカルにヒットしたカウンターです。


https://youtu.be/g_Aio37W9Bs?t=126

距離感について井上選手は

「特に重要なのが相手との距離だ。

どの距離ならば自分のパンチが的確に当たり逆にどの距離が危険なのか。

この距離はセンチ単位、ミリ単位で知る必要がある。

左手のグローブを、相手の前の手のグローブにポンポンと当てながら、その距離を測る。言ってみれば、昆虫の触角みたいなものだろうか。そこで、あえて相手にパンチを出させてみる。

もちろん、ステップワークで外せる距離で、そのテストを行うが、わざとパンチを打たせてガードの上で受けてみるケースもある。相手のパンチを受けることで、スピード、タイミング、そしてパンチの威力を計るのだ。」

https://gendai.media/articles/-/69152

と語っており、試合中に冷静に距離感を把握していることがわかります。

また、フルトン戦では
「一発目の左ボディージャブで距離感はつかめた。」
と語っており、やはりギリギリの距離感を掴む能力も異常に高いことがわかります。

メンタル

そしてあまり語られない部分がメンタルです。
井上選手の自伝「勝ちスイッチ」を読むと、自分を低く評価し、想像以上に思考していることがわかります。

過去の自分のスパーリングを見て
「ひとつひとつのパンチには、スピードはあって、全体的にまとまっているが、体のさばき、ステップワーク、相手のパンチに対する反応などには、突き抜けたセンスを感じさせるものはなかった。」
と語り、田中恒成選手のデビュー戦の方がセンスがあったと言います。

個人的には、井上選手の一番の武器だと思っていた部分に、センスがないと自己評価していたのには驚きました。
しかし、この感覚があるからこそ圧倒的に勝ち続けても、努力を続け、4階級制覇王者になった今でも強くなり続けているのでしょう。

そして井上選手は「リングに命をかけない」と言います。
怒りや憎悪の感情は、距離を測り、パンチが当たる位置、当たらない位置を瞬時に察知しながら、最善の方法を選択していくというインテリジェンスな作業の邪魔になるのでリングに持ち込まないそうです。

しかし、感情をコントロールできなくなりそうになった試合があると言います。
それは、マクドネル戦とエマニュエル・ロドリゲス戦です。

当時マクドネルは減量が上手くいかず、1時間以上計量の時間に遅れて来ました。
しかし、マクドネル陣営は謝罪もなく、計量に成功すると大はしゃぎしていたそうです。
相手のプロモーターのエディ・ハーンは「海外では30分、1時間の遅れは当たり前だ。騒ぎたてることじゃない」と語っていたそうです。
これには井上選手もかなり頭にきていたようです。

しかし、試合での井上選手は冷静でした。
マクドネルの最初のジャブで、パワーがなく、足にも力が入っていない、キレもないと感じたそうです。
そして試しにガードを固めて放った右のロングフック。
これでいけると感じた井上選手はダウンを奪ったあと、強引にラッシュをかけます。

マクドネルが減量に失敗していると確信した井上選手は、慎重にいくよりもガードの上からビッグパンチを当てたほうがいいと判断し、ノーガードのフルスイングでマクドネルを詰めます。
個人的には、このシーンは怒りのためにノーガードでラッシュをかけていると思っていましたが、あえてのノーガードだったといいます。

マクドネルの状態、ロープを背負わせているという状況から、井上選手は深刻なダメージを受けることはないと判断し、あえてラフに攻め立てたのです。

実際にマクドネルのカウンターがヒットしていますが、井上選手に効いた様子はありません。

ロドリゲス戦の前は、周囲の「次は何ラウンドで倒すんだろう」というプレッシャーから、強引なスパーリングしかできなくなりましたが、しっかり修正しました。

試合前にロドリゲス陣営が父・慎吾トレーナーを突き飛ばすというアクシデントがあり、「絶対にぶっ倒してやろう」と思ったそうですが、その感情はリングに持ち込みませんでした。

ドネア戦では、初の出血、眼窩底骨折、相手が二重に見えるなどのアクシデントがありながら、10R終了時には、井上選手が観客に向かって両腕を上げ会場を盛り上げ、試合後には「楽しかったー!」と言い、大橋会長を驚かせるなど、普通の人間ならパニックになってしまいそうなピンチを楽しめる、というメンタルの強さも持っています。

井上選手のメンタルを語ると切りがないので、この部分についてはいずれ動画で出したいと思います。

このように怒りでディフェンスが疎かになっていたと思われていたマクドネル戦ですら、井上選手の計算の上だったのです。

一発で試合が決まってしまう挌闘技では、驕りや油断、焦りなどが命取りとなってしまうことがあります。
しかし、井上選手は試合前の取り組みも含めて、そういった不安要素からのディフェンスの影響はかなり少なそうです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。
今回は、心技体から井上選手のディフェンス力を考察してみました。

今後とも挌闘技に関する動画を上げていきますので、気に入っていただければチャンネル登録、高評価を押していただければ幸いです。

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