ハードパンチャー同士の打ち合い【ダウンの応酬試合
K-1史上最高の打ち合い
続いては、K-1史に残るダウンの応酬となった名試合を紹介します。
マーク・ハント vs ジェロム・レ・バンナ、三戦目になります。
K-1屈指のハードパンチャーであるバンナと強烈なサモアンフックを持ったハントの対決です。
前回の戦いは、K-1グランプリ決勝でハントが優勝候補であるバンナをKO。
前回の戦いは、ケーワングランプリ決勝でハントが優勝候補であるバンナをKO。
見事なアップセットを見せ優勝し、ハントを一躍有名にしました。
その約半年後に行われたのがこの試合です。
試合はバンナの母国フランス、パリでの開催ですが、バンナは
「俺は生まれも育ちもフランスだが、フランス人が嫌いだし、日本の方が好きだ!フランスの国民性ってのは有名人に取り入ろうとしたり妬んだりする奴が多い。ハントとのビッグファイトは愛する日本のファンの前でやりたかった」
と語り、今大会はフランススポーツ省の「暴力性が高い」との意向により、蹴り足をつかんでの攻撃・膝蹴りなどが反則となる特別ルールで行われることが、大会前日に正式決定。
ハント対策として膝蹴りを練習してきたバンナにとっては、多くの不満がある試合でした。
しかし、試合はパリジェンヌも大満足する壮絶な内容となります。
試合が始まると、ワンツーとインローを中心に組み立てていくバンナ。
ハントは顎を引きおでこでパンチを受け、クリーンヒットはさせません。
1R終盤にはバンナをロープに詰め、右アッパーをヒットさせます。
そして打ち合いになりますがゴング。
両者次第にエンジンがかかってきた2R、開始してすぐにバンナの右のショートがカウンターでヒット。
ハントがダウンします。
打たれ強いハントですが、パンチでダウンをしたのはこれが初めてです。
何事もなかったようにすぐに立ち上がるハント。
すぐに倒しに行かず冷静に蹴りを放つバンナですが、ハントが打ち返してくると、強烈な左を連打し反撃します。
堰を切ったように猛攻を仕掛けるバンナ。
ハントはこの時の攻撃で右目に異変を感じます。
防戦一方になるハントに、これでもかとハイ、右フックを叩きつけるバンナ。
しかし、突如ハントが反撃。
フラつくバンナに右を追加し、今度はバンナがダウンを喫します。
何度も打ち込まれながら耐えていたハントと、一撃で効かされたバンナ。
同じハードパンチャーでありながら、打たれ強さでは対極的な2人です。
立ち上がったバンナを倒しにかかるハント。
バンナにとっては半年前の悪夢がよみがえります。
しかしそれでもやり返すのがこの男。
打ち返すと、すぐにロープに詰めハイや左右のフック、左ストレートを当てハントをぐらつかせます。
かと思えばハントが打ち返し、バンナが後退。
この壮絶な展開に観客のボルテージは最高潮になります。
フラフラになりながらも手を出し続ける両者。
好戦的な2人ですが、K-1でここまで打ち合う試合は見たことがありません。
そしてバンナがハントを突き放し、左ハイが直撃。
ハントはロープまで吹っ飛ぶダウンを喫しますが、立ち上がります。
しかし、さすがのハントでもダメージが隠せません。
そして、カウント直後に2R終了。
壮絶なラウンドとなりましたが、この試合は意外な決着で幕を閉じます。
インターバル中、ハントのセコンドからタオルが投入されます。
ハントが異変を感じていた右目をチェックしたドクターは「右目周辺を骨折している可能性が高い」とし、セコンドは棄権負けを選択。
バンナのTKO勝利となりました。
コーナーでガッツポーズを取るバンナ。
死闘を演じた戦士に観客はスタンディングオベーションを送りました。
バンナとハントの試合はどれも名試合ですが、この試合はK-1史上に残る壮絶な死闘となりました。
ボクシング史上最高の1R
ボクシングではかつて、歴代でもPFPに挙げられる選手が同じ階級、同じ時期に四人もおり、しのぎ合っていた時代がありました。
そんな四人の中でもハードパンチャー同士の歴史に残る壮絶な打ち合いとなった試合を紹介します
マービン・ハグラー vs トーマス・ハーンズ、WBA・WBC統一世界ミドル級タイトルマッチ。
この二人は、レナード、デュランらと共に80年代の黄金の中量級四天王のうちの二人で、歴史的なビッグマッチでした。
ハグラーは、右利きのサウスポーであるコンバーテッドサウスポーで、両手から放たれるパンチは強力で、テクニック、パワー、スタミナ、打たれ強さ、メンタル、抜けがなく全てのボクシングスキルがハイレベルです。
特に王座を獲得してからの防衛劇は圧巻で、12連続防衛、そのうちデュラン戦を除く全てをKOで防衛することになります。
一方、ハーンズは40勝34KO1敗と高いKO率を誇り、フリッカージャブやチョッピングライトを武器に多くの選手をキャンバスに沈めてきました。
その中にはハグラーが唯一判定防衛したデュランを滅多打ちにした戦慄のKOも含まれます。
プレスカンファレンスではお互いKO宣言が飛び出し、試合前にはレナードもテレビに登場して予想を語っていました。
このビッグマッチにラスベガスの屋外会場は熱気に包まれます。
そして試合は初回から壮絶な打ち合いとなるのです。
ゴングが鳴り、ハーンズがフリッカースタイルで高速のジャブを飛ばしていけば、ハグラーは飛び込んでビッグパンチをふるっていきます。
ロープを背負いながら強打を振り回すハーンズ。
ハーンズの強打を被弾しても何事もなかったように突進し続けるハグラー。
壮絶な打撃戦です。
この凄まじい打ち合いに、1R終了時点で観客は大歓声を送ります。
このラウンドは”ボクシング史上最高の1R”として語り継がれることになります。
そしてインターバル中、ハグラーの額から血が流れます。ハーンズのパンチがハグラーの頭皮を切り裂いたのです。
目の上のカットはよく見ますが、額のカットは見たことがありません。
この試合を裁いたリチャード・スティールレフェリーはは後に
「パンチで額が割れたのを初めて見た…」と述懐していました。
2R、ハーンズが脚を使ってアウトボクシングをします。
リーチの長いジャブや右でハグラーを迎撃しますが、ハグラーの突進は止まりません。
残り30秒を切ったあたりでハグラーが左右のフックを叩き付け、ハーンズをロープに釘付けにし、再び打ち合いとなります。
そして3R、引き続き脚を使うハーンズですが、ハグラーは前に出続けます。
脅威の打たれ強さを誇るハグラーですが、側頭部が普通の人間より4倍厚いという話があり、ダウン経験はスリップ気味の一度だけです。
そして、1分半がすぎたところで右をヒット、ハーンズの膝が踊ります。
丸太のように太い腕からは意外ですが、ハグラーのリーチは身長より14センチも長く、利き腕でもある前手を伸ばした飛び込みパンチは多くのボクサーを沈めてきました。
この勝機をハグラーが見逃すはずもなく、すぐに追いかけ追撃するとハーンズがゆっくりと崩れ落ちます。
仰向けで天井を見つめるハーンズ。
辛うじて立ち上りますがグロッキーなハーンズを見て、レフェリーは試合を終わらせました。
両腕を上げ、激闘の勝利を噛みしめるハグラー。
敗れたハーンズですが、ハーンズと中量級四天王の試合は、いずれも歴史的な試合になる名試合製造機です。
初回から最後までフルスロットルの、今でも語り継がれる凄まじい打撃戦でした。
軽量級史上最高のKOキング対決
続いてはボクシング史に残る、軽量級史上最高のKOキング対決を紹介します。
ウィルフレド・ゴメス vs カルロス・サラテ、WBCスーパーバンタム級タイトルマッチ。
この試合は55戦全勝53KO無敗のサラテと、26戦25勝25KO1分のゴメスの化け物レコード同士の試合となりました。
サラテはデビューから23連続KOを記録。世界タイトルを9連続KOで防衛することになる選手で、29戦29勝29KO無敗のサモラとのハードパンチャー対決をKOで制した選手です。
一方ゴメスは、日本のロイヤル小林選手をKOで沈めたことがあり、世界タイトルを17連続KOで防衛することになる選手です。
バンタム級で戦っていたサラテですが、減量苦から2階級制覇を目指し1階級上げての挑戦です。
戦前の予想ではキャリアで勝るサラテが優位でしたが、体調を崩していたサラテは減量に失敗していました。
当日朝の計量では2.5ポンド(1キロ以上)オーバーし、3回目の計量でようやくリミットに達成。
万全とは程遠いコンディションでした。
会場は王者ゴメスのホーム、プエルトリコです。
試合が始まると、プレッシャーをかけていくサラテに対し、強打を警戒しているのかリングをサークリングしアウトボクシングをするゴメス。
減量に失敗しているサラテとしては早く試合を終わらせたいところですが、ゴメスが冷静に距離を取り、要所でカウンターを入れ、打ち合いません。
しかし4Rになると、ゴメスが攻勢に転じ積極的になっていきます。
下がりながらも左フックのカウンターを狙う場面が見られます。
そして、サラテの左アッパーに左フックをカウンターで当てぐらつかせると、コーナーに詰めてきたサラテにチェックフックを追加し、ダウンを奪います。
1~3Rでタイミングを図っていたのでしょうか、ついにゴメスの強打が爆発します。
立ち上がったサラテですが、ゴメスの猛攻が襲いかかります。
距離を取りながらコーナーにつめ怒涛のラッシュをかけるゴメス。
凄まじい勢いですが、そんな中でも冷静に上下に打ち分けています。
この光景にゴメスの地元の観客は割れんばかりの歓声をあげます。
さらに、滅多打ちでヨロヨロと倒れるサラテですが、実はこの前にすでにゴングが鳴っていたのです。
しかしこの大歓声は、レフェリーからゴングの音をかき消すには充分でした。
余分なダメージを受けたサラテですが、ゴメスは容赦しません。
5R、試合を終わらせにかかるゴメス。
カミソリのように鋭い左フックがサラテに何度も襲いかかります。
そして、サラテが膝をキャンバスについたところでセコンドがタオルを投入。
試合後の会場の熱気が、いかにこの試合の熱が高かったかを物語っています。
こうして、ボクシング史に名を残す稀代の強打者対決が幕を下ろしたのでした。
人類最強選手の伝説のKO
続いて紹介するのは、2017KOオブ・ザ・イヤーに選ばれた衝撃のKOです。
フランシス・ガヌー vs. アリスター・オーフレイム。
ガヌーは2022年までは16勝のうち全てをKOか一本というフィニッシュ率100%の戦績を誇り(当時は11勝1敗)、パンチ力は96馬力を記録し世界記録となっているハードパンチャーです。
一方アリスターは日本のPRIDEやK-1でも活躍していた選手で、その屈強な体から繰り出されるパンチでKOの山を築いてきました。
当時ランキング3位のガヌーと1位のアリスターの試合です。
試合が始まると、いきなりビッグパンチを放っていくアリスター。
ヘビー級の迫力のパンチが交差します。
そしてケージ際でしばらく組み合い、ブレイク後、両者見合う緊張の時間が続きます。
しかし突如、アリスターの左フックの打ち終わりにガヌーの左アッパーが炸裂。
一撃で失神したアリスターにガヌーがパウンドを追加したところでレフェリーストップとなります。
アリスターが身体を傾けたところにガヌーの強烈なアッパーが顎にヒット。
当たった瞬間アリスターの顔が弾けるように大きく揺れているのがわかります。
ガヌーのアッパーが顎にクリーンヒットしたわけですから、倒れないわけがありません。
この一撃はガヌーを一躍有名にした、代表的なショットになります。
ヘビー級同士の大迫力のKOでした。
中量級史上稀代の倒し屋対決
続いては、ボクシング中量級史上稀代の倒し屋2人の対決です。
ジュリアン・ジャクソン vs ジェラルド・マクラレン、WBCミドル級タイトルマッチです。
チャンピオンのジャクソンはここまで46勝43KO1敗、マクラレンは27勝25KO2敗という、お互い強打者のレコードを誇っています。
この試合は1993年に行われましたが、ジャクソンはこの時点の現役チャンピオンの中で最も高いKO率の91%。43KOのうち36回が4R以内のKO。この試合が5度目の防衛戦となります。
元スーパーウェルター級のチャンピオンで王座を3度防衛後、ミドル級に上げてタイトルを獲得した2階級制覇の強豪です。
スーパーウェルター級時代の防衛戦の相手には、後の世界王者テリー・ノリスも含まれており、わずか2Rでノリスを粉砕しています。
一方のマクラレンは、アマチュアで62勝8敗のレコードを残していますが、その勝ち星の中には後のPFP、ロイ・ジョーンズ・ジュニアに勝った星も含まれています。
27勝25KOでKO率は86%。25KOのうち22KOが2R以内、1RKOが17回とこちらも脅威の瞬殺っぷりを見せていました。
元WBOミドル級チャンピオンで、そのタイトルはザ・ビーストといわれたジョン・ムガビを1RでKOして獲得しています。
2021年に、日本のあるボクシング雑誌が歴代最強のハードパンチャーTOP10を読者投票で選ぶという企画をやっていましたが、この2人は共に上位にランクインしていました。
そんな生粋の倒し屋同士の対決です。
試合が始まると初回からファンの期待通りの打ち合いになります。
両者ジャブの差し合いから、時折パワーパンチが空を切りますが、当たれば一発で倒せそうなスイングに緊張感が漂います。
そして、マクラレンの強烈な右がヒットし、ジャクソンがグラつきます。
追撃をするジャクソンも強打を打ち返し、マクラレンの勢いを止めます。
倒し屋同士の強打の打ち合い。スリリングな展開が続きます。
2Rになると、ジャクソンがプレッシャーをかけ、終盤には効かせるパンチを打ち込みます。
いつ試合が終わってもおかしくない強打の振り合いが続きますが、3R終盤、レフェリーが両者を分け注意した後にマクラレンのパンチが炸裂。
ジャクソンがロープ際でダウンします。
しかし、レフェリーはスリップと判断。ジャクソンはゴングに救われます。
4Rにはマクラレンが足を使いボクシングをし始めます。
それを追いかけるジャクソンですが、若干バランスの悪さが目立ち、ダメージを伺わせます。
そして迎えた5R、序盤にジャクソンのローブローで少しの休憩が与えられますが、再開後マクラレンの右がジャクソンの顎をとらえると、返しの左でダウンを奪います。
バタンとキャンバスに叩き付けられるようにダウンし、ロープの外側に出されたジャクソン。
すぐに立ち上がります。
しかし、試合を終わらせにかかるマクラレンの猛攻に再びダウン。
立ち上がるものの足元のおぼつかないジャクソンを見て、レフェリーは試合を止めました。
こうしてKOキング対決は挑戦者マクラレンに軍配が上がり、幕を降ろしたのでした。
両者は1年後に再戦しますが、マクラレンが滅多打ちからボディであっという間の1RTKOで勝利しています。
歴代の倒し屋同士の打ち合い。片時も目を離せない緊迫した一戦でした。
剛腕同士が起こした格闘技史に残る事件
続いて紹介するのは、2001年に行われたジェロム・レ・バンナ vs マイク・ベルナルドでの格闘技史に残る事件です。
両者、剛腕を武器にKOの山を築いてきた選手で、K-1のハードパンチャーといえばこの二人でした。
2人は7年前と6年前に試合をし、バンナが勝ち越していますが、2人とも当時よりも実力、人気ともに遥かに上がった状態です。
K-1屈指のハードパンチャー同士のこの対決に、ファンたちは試合前から大きな期待を寄せていました。
試合前、鋭い眼光でにらみ合う両者、2人の気合と緊張が伝わります。
試合が始まると両者、距離を取り緊張の時間が続きますが、徐々にバンナがプレッシャーを強めていきます。
一時も目が離せない試合に、会場の横浜アリーナは緊張とどよめきが続きます。
1分半には、バンナがベルナルドをコーナーにつめ、ガードの上から剛腕を叩きつけます。
ベルナルドは防戦一方の展開が続きますが、1R終了10秒前の拍子木が鳴り、バンナが優勢でベルナルドをロープにつめた瞬間でした。
ベルナルドが身体を入れ替える間際、左フックと右アッパーをヒットさせ、バンナがぐらつきます。
一気に勝負をかけるベルナルド。
ハリケーンのようなラッシュがバンナを襲いかかると、巨体はキャンバスに崩れ落ちます。
実は、このダウンの前に1R終了のゴングが鳴っていました。
しかし、満員の横浜アリーナの大歓声がゴングの音をかき消していたのです。
それほどファンはこの光景に興奮し、熱狂していたのでした。
ゴングが聞こえなかったレフェリーは試合を止められずに、1R終了後もベルナルドのラッシュが続くことになりました。
ゴング後に3発ものベルナルドの剛腕を被弾したバンナ。
バンナ陣営は抗議し、このダウンは認められませんでした。
そして、バンナの回復を待って試合再開する予定でしたが、結局再開はされず。
ベルナルドによるラウンド終了後の攻撃ですが、ゴングが聞こえず、レフェリーも止めない状態での攻撃で、ベルナルドに非はありません。
しかし、バンナは受けるはずのなかったダメージを受け、完全な回復は難しい状態です。
結局、この試合は無効試合となり幻のKOとなりました。
そしてその後、両者が再戦することはありませんでした。
両者の完全決着が見たかったのは私だけではないでしょう。
K-1屈指の剛腕同士が戦った、様々な意味で歴史に残る試合でした。
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